コラム

「令和6年度 地方労働行政運営方針」に見る

2024年4月1日、厚生労働省より「令和6年度地方労働行政運営方針」が公表されました。
今年度は、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少という構造的な課題に加え、
急激な物価上昇に対する持続的な賃上げの実現、多様な働き方を可能とする環境整備などへの対応方針が盛り込まれています。

毎年4月、厚生労働省より年度における労働行政の重点課題を示した「地方労働行政運営方針」(以下、運営方針) が策定・公表されます。
各都道府県労働局は、この運営方針をもとに管内事情を鑑み、
各局の行政運営方針を策定して、計画的な行政運営を図ることが求められます。

運営方針は、企業の労務管理においても重要な指針であり、毎年確認の上で自社についても見直すことが大切です。

今年度の重点課題と施策

運営方針の冒頭には、
「コロナ後の経済回復に対応した人手不足の克服、継続的な賃上げ、
多様な働き方の実現による持続的な成長と分配の好循環を実現することが重要である」と記されています。

施策としては、三位一体の労働市場改革である
1リ・スキリングによる能力向上支援、
2個々の企業の実態に応じた職務給の導入、
3成長分野への労働移動を推進する方針です。

また同時に、2023年9月に策定した「年収の壁・支援強化パッケージ」や、
同年11月に閣議決定した「デフレ完全脱却のための総合経済対策」を実行することにより、
多様な人材の活用促進や多様な働き方を支援する諸施策を講じるとしています。

継続的な賃金の引上げ

特に中小企業・小規模事業者の生産性向上に向けた支援を強化するため、
「業務改善助成金」による支援が挙げられています。

また、最低賃金については、賃金引上げと連動して2030年代半ばまでに全国加重平均が1500円となることを目指すとしています。
労働局および労働基準監督署 (以下、監督署)においても、最低賃金や賃金支払いの徹底を図り、
地域の平均的な賃金や企業の好取組事例がわかる資料などを提供することにより、
賃金引上げに向けた環境整備などの取り組みを行う、としています。

非正規労働者の処遇改善等

同一労働同一賃金については、監督署による定期監督等で確認を行い、
不備があった場合は点検要請や支援策の周知をして、
企業の自主的な取り組みを促すことで遵守徹底を図る方針です。

また、短時間労働者が「年収の壁」を意識せずに働くことができる環境づくりとして、
「キャリアアップ助成金」の周知、活用推奨を実施し、処遇改善や正社員化を行う企業への支援が行われます。

その他、ステップアップを目指す非正規雇用労働者等に対して求職者支援制度による支援を行い、
また、無期転換ルール制度の周知・啓発を行うとしています。

リスキリングによる能力向上

DXの進展など産業構造の変化の加速化が見込まれるなか、学び・学び直しの取り組みについては、
職場において労使協働し、全国展開することが重要であるとしています。

具体的には、教育訓練給付に関し、理由を問わず電子申請可能であることを周知して教育訓練を受講しやすい環境整備を図り、
地域のニーズに沿った指定講座を拡大することにより訓練機会を確保する方針です。

労働者の主体的なリ・スキリングを支援する企業に対しては、「長期教育訓練休暇制度」の賃金助成を拡充し、
引き続き「人材開発支援助成金」の活用を積極的に推奨します。

また、スキルアップを目的とした在籍型出向を促すことにより、 企業における人材育成を推進させるとしています。
公的職業訓練及び教育訓練給付においては、2024年度にデジタル分野の受講者数7万人を目指して、
デジタル推進人材の育成を図る方針です。

労働移動の円滑化等の推進

人材を有効活用し、個々人が意欲と能力に応じて活躍するためには、
成長分野(デジタル・グリーン)への円滑な労働移動を可能とする環境整備が不可欠であると記されています。

取り組みとしては、成長分野などへの就職を希望する就職困難者を雇入れる事業主に対して高額助成を行う
「特定求職者雇用開発助成金」を周知・活用推進し、
「job tag(職業情報提供サイト)」によって職業や職場情報の収集・提供による求職者と企業のマッチング機能の強化を図るとしています。

その他、都市部から地方への移住を伴う再就職などに対して、ハローワークの全国ネットワークを利用した支援を実施。
早期再就職支援や中途採用の機会拡大を目的として、
前職よりも5%以上の賃金上昇を伴う労働者移動を支援した事業主に対して、助成を行うとしています。

多様な人材活用と環境整備

フリーランスの就業環境整備としては、「フリーランス事業者間取引適正化等法」を周知啓発し、
取引上のトラブルや法違反に対して監督署による指導を行い、
日本年金機構年金事務所および労働局労働保険適用徴収部門への情報提供を徹底する方針です。

仕事と育児・介護の両立支援においては、出産・介護による離職を防ぐため、
業務代替整備や柔軟な働き方の導入などの支援を拡充するとしています。

具体的には、「産後パパ育休」を含め、育児・介護休業法に基づく両立支援について周知徹底を図り、
男性の育児 休業取得率を2025年までに50%に引上げ、2030年までの目標を85%とするとしています。

また、労働者の尊厳を傷つけ、能力の発揮を妨げる要因となるハラスメントについては、
相談支援を含む総合的な防止対策を推進し、働く人のワークエンゲージメント向上に向けて周知・支援を行うとしています。
さらには、民間企業における女性活躍推進支援として、
男女の賃金差異の要因分析と情報公表による雇用管理の改善と取り組みを促すとしています。

適正な労働時間管理

長時間労働の抑制及び過重労働による健康被害防止を図るため、 賃金不払残業、
裁量労働制の不適切な運用など法定労働条件の確保・改善に向けて、監督署による指導を徹底する方針です。

特に、医師、建設事業、自動車運転の業務などの2024年度から時間外労働の上限規制適用となった業務に関しては、
取引関係者や国民全体の理解を得ることが重要であり、周知徹底するとともに丁寧な相談・支援を行うとしています。

多様な人材の就労と働き方

個々のニーズに基づいた働き方を選択し活躍できる場を提供するため、
各企業に対して、勤務時間限定正社員などの多様な正社員制度、テレワーク、
勤務間インターバル制度、選択的週休3日制などの柔軟な働き方を推進する施策や、
働き方・休み方改革、 年次有給休暇の取得促進などを求めていく方針です。

また、経済社会の活力を維持向上させるためには働く意欲がある高年齢者が
年齢に関係なくその能力と経験を活かして活躍できる社会の実現が求められます。

そのためにも、65歳までの雇用確保措置が不可欠であると明記され、その上で、
70歳までの就業機会確保に向けた環境整備や高年齢労働者の処遇改善を行う企業に対して、
助成金による支援を行うとしています。

その他、障害者の法定雇用率を2024年4月から2.5%、2026年7月から2.7%と段階的に引上げ、
対象企業への早期の周知・啓発を行う予定です。外国人求職者については、就労支援を行い、
企業における外国人労働者に対する適正な雇用管理を推進する取り組みが実施されます。



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