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深刻化する人手不足の現状と企業の対応策
2025年の課題を考える
企業の人手不足が発生する原因には、少子高齢化をはじめ様々な要因が絡んでいます。
ここでは企業が直面している人手不足の現状や原因、影響などの観点をもとに、
企業としてどのような対策を講じる必要があるかを確認しましょう。
厚生労働省公表の「労働経済動向調査」(2024年8月1日現在)で、
労働者の過不足状況について労働者過不足判断D.I. (過不足の変化指標)を見ると、
正社員およびパートタイム労働者のいずれも不足超過となっています。
特に正社員はパート労働者より不足超過が高く、人手不足が深刻化していることがわかります。
人手不足の変遷
2024年9月に公表された「令和6年版労働経済の分析」によると、人手不足の発生は、過去半世紀において、
経済情勢、産業構造や働き方の変化などから、3期間に分けて考察することができます。
まず、1970年代前半の状況については、高度経済成長期の末期であり、
高い経済成長率に伴う労働力需要の増加により求人競争が激化し、人手不足が生じていたことが指摘されています。
1980年代後半から1990年代前半にかけては、バブル期における 高度経済成長期から安定成長期への移行期にあたり、
雇用吸収率の高いサービス産業化が進むなかで労働力需要が高まり、短期的に人手不足が発生したことがうかがえます。
法改正により、段階的に法定労働時間が週40時間まで短縮され、さらに週休2日制の導入も相まって、
フルタイム労働者に人手不足が生じ、一方でパートタイム労働者が増加するなど、流動的な人手不足であったことが指摘されています。
2010年代以降では、 1990年代 後半のバブル崩壊から経済が回復するなかで、
より一層サービス産 業が発展したことも影響して、再び人手不足が発生したと考察されています。
企業による定着支援策などにより短期離職者が減少し、欠員が生じにくくなったものの、
新規求人に占める就職件数の割合である充足率は長期にわたり低下しています。
特にフルタイム求人においては、2023年に過去最低水準となり、欠員の充足が困難となっていることがわかります。
加速する少子高齢化社会においては、採用活動も長期化しやすい可能性があることから、
「長期的かつ粘着的」な人手不足となり、深刻化していることが指摘されています。
人手不足の原因
2010年代以降の人手不足については、大きく3つの原因が挙げられています。
1つ目は、広範囲にわたる産業や職業において労働力需給ギャップにマイナスがみられる点です。
「労働力需給ギャップ」とは、労働市場に参加している者が供給できる最大の総労働力である「労働力供給」から、
企業が必要とする総労働力である「労働力需要」を時間単位で計算して差し引いた数値を指します。
これらを産業別・職業別に推計することで、人手不足に陥っている分野とその程度を定量的に示すことができます。
労働力需給ギャップは、特に建設業や医療・福祉における専門的・技術的職業従事者や、
宿泊業・飲食サービス業におけるサービス職業従事者といった対人サービスに係る職業においてマイナス幅が大きく、
広範な産業・職業において、 労働力不足が深刻化していることがうかがえます。
2つ目は、中小企業から大企業への転職の活発化で、賃金など労働条件が良く、
福利厚生なども充実している1000人以上規模企業への労働移動が進んでいることが挙げられています。
中小企業への転職は1%程度まで低下し、5~99人規模企業では同規模企業への転職率は高いものの、
長期的には低下傾向であり、中小企業において人手不足が深刻化していることがわかります。
3つ目は、労働市場のマッチング効率性の低下です。
「マッチング効率性」とは、
求人件数と求職者数がどちらも1%増加したときに実際にどれだけ就職件数が増加するかを示す指標です。
求人件数や求職者数の増減だけでは説明できない就職件数の増減を知ることができます。
マッチング効率性が低下する原因としては、高齢の求職者が増加しているのに対し、
企業が高齢者の採用にあまり積極的でないことや、求職者が希望する絶対条件が多様化し、
応募にあたって重視する条件をより厳しく吟味している可能性があることが指摘されています。
人手不足が賃金に与える影響
人手不足と賃金の関係については、国際比較を行い分析した結果、
各国とも欠員率と賃金上昇率には正の相関関係が見られることが確認されています。
欠員率とは、常用労働者数に対する欠員補充のために必要な求人の割合を示したものです。
日本の現状においては、ほぼすべての産業において欠員率が上昇しており、特にその傾向は中小企業で顕著となっています。
また、欠員率に加えて、生産性の上昇率に連動して、賃金上昇率も高まる傾向があることも指摘されています。
日本においては、賃金上昇率と欠員率の相関係数が比較的高く、生産性上昇率については比較的低い傾向にあるため、
今後の人手不足の深刻化には賃金を引き上げる効果がある可能性があると考えられています。
人手不足への対応策
冒頭で取り上げた「労働経済動向調査」の「事業所の労働者不足の対処方法」(複数回答) を見ると、
現在労働者が不足していて、かつ、過去1年間に何らかの労働者不足の対処をした事業所の割合は、
「正社員等採用・正社員以外から正社員への登用の増加」が過去1年間(59%)、今後1年間(60%)ともに最多。
次いで、「在職者の労働条件の改善(賃金)」が過去1年間(55%)、今後1年間(48%) ともに続いています。
今後、長期的な人口減少が見込まれるなか、人手不足への対応と持続的な賃上げに同時に取り組むためには、
企業において、生産性向上に資する設備投資などの取り組みや、リスキリングによる人材育成が不可欠となります。
厚生労働省では、これら企業の取り組みに対して、
各種助成金や教育訓練給付金の拡充などの支援を行い、必要に応じて積極的に活用することを推奨しています。
労働力供給においては、多様な人材の労働参加を促すことが重要であると指摘されています。
特に女性について、育児や家事、介護の負担によるキャリアの中断が問題視されており、負担軽減に向けた社会的支援や、
有期雇用労働者などの正社員転換を促すなど就業継続可能な環境整備を進める必要があります。
同時に男性においても、仕事と家庭の両立が可能となるように、
柔軟な労働時間や休暇の取得促進など、職場環境づくりが重要になってきます。
さらに今後、高齢者雇用の重要性がますます高まってくることから、希望に応じて65歳を超えて就業できる環境整備も必要不可欠です。
一方、外国人雇用については、単に労働力不足を補うためだけでなく、即戦力となる専門的人材の受け入れ先として「選ばれる国」となるために、
賃金をはじめ休日日数などを含めた総合的な処遇の向上に努めることが重要であると指摘されています。
また、人手不足が深刻である介護分野や小売り・サービス分野などにおいては、
特有の背景があり、人手不足の程度や状況によって効果のある対策が異なることから、
事業所ごとに原因となる課題を整理した上で、優先順位を決め、対応することが求められます。