今年度の労働行政の重点課題と取り組み
「令和7年度地方労働行政運営方針」の概要を解説
2025年4月1日に厚生労働省より「令和7年度地方労働行政運営方針」が策定・公表されました。
各年度における地方労働行政運営方針は、その年の企業労務に影響を及ぼすため、
毎年内容を確認するとともに自社の労務管理の点検を行っていきましょう。
地方労働行政運営方針とは
例年4月に厚生労働省より策定・公表される「地方労働行政運営方針」(以下、運営方針)では、
その年度における労働行政の重点課題が示されています。
各都道府県労働局においては、この運営方針を踏まえ、管内事情に即した重点課題と
対策などを盛り込んだ行政運営方針を策定し、計画的な行政運営を図ることが求められています。
2025年度 (令和7年度) の運営方針では、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少という構造的な課題である、
1 最低賃金・賃金の引き上げに向けた支援、非正規雇用労働者への支援、
2 リ・スキリング、ジョブ型人事(職務給)の導入、労働移動の円滑化、
3 人手不足対策、
4 多様な人材の活躍促進と職場環境改善に関する取り組み
の4つが示されています。
重点課題とその取り組み 1
中小企業・小規模事業者が賃上げしやすい環境整備を行うためには、昨年度と同様に、
適切な価格転嫁と生産性向上支援により、最低賃金の引き上げを後押しすることが不可欠であるとしています。
また、雇用形態に関わらない公正な待遇(同一労働同一賃金)の確保に向けて、
非正規雇用労働者の処遇改善や正社員への転換をはじめ、「年収の壁」にとらわれない環境づくりや、
誰もが主体的にスキルアップに取り組むための環境整備を押し進めていくことが重要であるとしています。
具体策として助成金の活用・利用促進が挙げられており、
労働市場全体の賃上げを支援する「賃上げ」支援助成金パッケージをはじめ、
キャリアアップ助成金については「年収の壁支援強化パッケージ」として各種コースを設定。
各企業のニーズに沿った利用が可能となるように周知・活用推奨を行う方針です。
最低賃金については、履行確保上問題があると考えられる業種などに対し、
重点的に監督指導等を行い、最低賃金制度の適切な運営を図るとしています。
また監督署による定期監督においては、企業に対し、短時間労働者、
有期雇用労働者または派遣労働者の待遇等の状況に関する情報提供を求め、
都道府県労働局雇用環境・均等部(室)または職業安定部と連携して、是正指導の実効性を高める方針です。
さらに、正社員との待遇差に十分な説明がない企業に対しては、
監督署から点検要請を実施するなど企業の自主的な取り組みを促し、
同一労働同一賃金の徹底を図る方針です。
重点課題とその取り組み 2
グローバル化が進展し、DX・生成AIが普及するなか、リ・スキリングを含め、
労使協働による職場における学び・学び直しの取り組みを
全国に広めていくことが重要であるとしています。
また、スキルを正当に評価するため、従来の社内検定認定制度に加えて、
求職者やフリーランスなど雇用する労働者以外も受験対象とする団体等検定制度の活用を促進し、
持続的・構造的な賃上げの実現を目指すとしています。
具体的には、教育訓練給付制度について、
給付率の引き上げや理由を問わず電子申請が可能となった点をはじめ、
今年10月から施行予定である訓練期間中の生活費を支援する
教育訓練休暇給付金や新たな融資制度について周知を行うとしています。
デジタル推進人材の育成においては、公的職業訓練に関して、
企業実習付きコースへの訓練委託費等の上乗せ措置などにより訓練コースの設定促進を図り、
2026年度に受講者数12万2000人を目指す方針です。
さらに、企業内での人材育成を推進するため、人材開発支援助成金の賃金助成額を引き上げ、
すべてのコースにおいてデジタル分野における訓練の活用促進を行うとしています。
また、個々の企業の実態に応じたジョブ型人事の導入においては、
職務給の導入や配偶者手当の見直しに関連して、
「ジョブ型人「事指針」の紹介・周知などを実施するとしています。
重点課題とその取り組み 3
人手不足感が深刻化するなか、
特に中小企業における人材確保の支援が重要であると記されています。
取り組みとしては、ハローワークにおける求人対応のオンライン化をはじめ、
人材確保等支援助成金や雇用管理改善のコンサルティングなどについて周知を行うとしています。
また、職業紹介事業者など雇用仲介事業者に対しては、
すべての過程において金銭等の提供を原則禁止とし、
手数料実績の公開および利用料金違約金規約の明示を義務化するなど、
法令順守の徹底を図るとしています。
重点課題とその取り組み 4
少子高齢化社会においては、高年齢者をはじめ、障害者や外国人労働者、
就職氷河期世代を含む中高年層など、
職業的自立を必要とする求職者に対して就労支援を行うことが重要であり、
引き続き、 多様な人材の活躍促進に努めるとしています。
併せて、女性活躍推進、仕事と育児・介護の両立支援やワーク・ライフ・バランスの推進、
総合的なハラスメント防止対策の推進、安全で健康に働くことができる環境づくり、
フリーランス等の就業環境の整備が重点課題として挙げられています。
具体的には、企業に対し、65歳超雇用推進助成金や70歳雇用推進プランナー等による支援など、
高年齢者雇用政策の周知・啓発に取り組む方針です。
障害者雇用については、努力義務である個々の有する能力に応じた勤務時間の延長の周知や、
精神障害や発達障害など多様な障害特性に対応した就労支援を行うとしています。
さらに、年々増加する外国人労働者に対しては、
雇用管理の改善について指針に基づいた助言・指導などを行い、
外国人雇用状況届出制度の適正な対応を取っていくとしています。
女性活躍の推進に向けては、男女間の賃金差異に対し差別的取り扱いの有無を確認するなど、
男女雇用機会均等法の確実な履行確保を図り、
また男女間賃金差異に係る情報公表等に関して報告徴収等を実施し、
女性活躍推進法の履行確保を図るとしています。
仕事と育児・介護の両立については、
2030年までに男性の育児休業取得率を85%とする政府目標の達成および介護離職防止の観点から、
段階的に施行される改正育児・介護休業法について、労使団体などと連携して周知徹底を図る方針です。
併せて、両立支援等助成金の活用による職場環境の整備や、
出生後休業支援給付および育児時短就業給付の周知により、
両親が共に働き育児を行う「共働き・共育て」の推進を図る方針です。
また、勤務時間、勤務地、職種・ 職務を限定した多様な正社員制度の普及促進、
テレワークの導入・定着、勤務間インターバル制度の導入促進、
年次有給休暇の取得促進など多様な働き方の実現に向けた環境整備を行い、
ワーク・ライフ・バランスの促進を図るとしています。
さらに労働基準関係法令の履行確保が必要不可欠とした上で、
長時間労働の抑制に向けた監督指導の徹底や助言指導、労働条件の確保・改善対策の強化、
高年齢労働者や外国人労働者、業種別などにおける労働災害防止対策や
健康確保対策の推進などを行い、
誰もが安心して働くことができる良好な職場環境の実現を目指す方針です。
フリーランスに対しては、労災保険特別加入制度への対象拡大も含めて
フリーランス新法の履行確保を図り、丁寧な対応を行うとしています。
「令和7年度地方労働行政運営方針」の詳細は厚生労働省のウェブサイトで確認することができます。
