カスタマーハラスメントへの対応と労務管理
顧客の不当な言動から従業員を守るために
近時、顧客からの迷惑行為 (カスタマーハラスメント) が社会問題化しています。
企業として、カスタマーハラスメントから従業員を守るための対策について、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」などを参考にまとめます。
カスタマーハラスメントの現状
カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)とは、
「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、
当該要求を実現するための手段態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、
労働者の就業環境が害されるもの」と定義されています (厚生労働省 「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」)。
カスハラは従業員に過度な精神的ストレスを与え、業務に支障を及ぼして企業や組織に多大な損失を招くことにもなります。
したがって、企業は、優越的な立場にある顧客に対して強く出られない従業員を、
顧客の悪質なクレーム・不当な言動から守るための対応が求められます。
同マニュアルによると、全国の企業・団体に勤務する20歳から64歳の男女労働者のうち、
過去3年間に勤務先でカスハラを一度以上経験した者の割合は15.0%。
受けた行為の内容は「長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム (過度なもの)」が5割を超えて最も多く、
次いで「名誉毀損・侮辱・ひどい暴言」、「著しく不当な要求」の順となっています(図表参照)。
従業員への影響
厚生労働省の労働者調査では、顧客から著しい迷惑行為を受けた際の労働者の心身への影響は
「怒りや不満、不安などを感じた」(67.6%)や「仕事に対する意欲が減退した」(46.2%) が多くなっています。
また、「何回も繰り返し経験した」労働者においては、「眠れなくなった」 (21.2%)、
「通院したり、服薬した」(8.8%)の割合が高く、深刻な影響がうかがえます。
こうした現状を踏まえると、企業として、カスハラに対して適切な対応をしていないと、
被害労働者から業務上災害として安全配慮義務違反を問われ、その責任を追及される可能性があります。
企業が取り組むべき対策
企業としては、自社の属する業界や顧客の特性などを踏まえて、
カスハラに対する会社としての基本方針を明確にし、従業員に周知しておかなければなりません。
また、業界や自社で起きた事例などを調査し、対応方法の成功例、失敗例などを精査して、
カスハラが発生した場合の対応マニュアルなどを策定しておくことも必要です。
悪質な顧客においては、現場対応だけでは解決せず、警察や弁護士等との連携も必要です。
したがって、基本方針や対応マニュアル、手順書等を策定したら、
パート・アルバイトを含めた従業員研修を行い、対応策を共有することが重要です。
特に、店長やマネージャーなどは、上司として現場でカスハラの被害を受ける従業員の最初の相談者ともなりますので、
自社の基本方針、対応手順等を習得しておく必要があります。
企業は、従業員に対する労働契約法上の安全配慮義務 (第5条) があります。
したがって、カスハラ対応にあたった従業員のサポートやケアのために社内相談窓口を設置し、
場合によっては産業医や臨床心理士などの専門家につなげ、適切なケアを受けられるよう体制を整えることも必要でしょう。