労務トラブル回避Q&Aこんなときどうする
休職明けの年次有給休暇の取得義務について
Q 当社は毎年4月1日(付与基準日)に年次有給休暇を与えています。
昨年の4月中旬から休職していた社員が今年の3月下旬に復職しましたが、
今年度はまだ年次有給休暇を取得していません。
この場合、同年度内に5日間を取得させなければならないのでしょうか。
A 労働基準法上、年次有給休暇は労働者の雇用形態別にその勤続年数に応じて必要な付与日数が定められています。
また、新たに年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対しては、
付与日から1年以内に5日間 (繰越分を含む)について必ず取得させなければなりません。
本来、年次有給休暇は、労働者が請求する時季に与えることを原則としていますが、
5日の強制取得義務があるため、当該5日分については、会社が年次有給休暇管理簿を作成して、
労働者の年次有給休暇の取得状況を確認し、取得していない労働者については会社が取得時季を指定する必要があります。
この取得義務に反した場合には、罰則として違反者1人につき30万円以下の罰金が適用される場合もありますので注意しなければなりません。
年次有給休暇と休職の関係について見ると、年次有給休暇とは労働義務のある日の労働を免除する制度です。
他方、休職とは雇用関係は維持しつつ、配属されていた所属を離れ、労働義務を免除された状態をいいます。
休職制度は必ず設けなければならない法的義務はないものの、ほとんどの会社がこの休職制度を設けています。
したがって、例えば、付与基準日である4月1日からの1年の間、またそれ以前から休職しており、
期間中に一度も復職しなかった場合などは、使用者にとって5日取得させる義務の履行ができないことになりますので、
これをもって労働基準法違反を問われることはありません。
このように年次有給休暇も休職もともに、本来の労働日について労働を免除されるものであり、
その関係性において行政解釈では
「休職発令により従来配属されていた所属を離れ、以後は単に会社に籍があるにとどまり、
会社に対して全く労働の義務を免除されることとなる場合において、休職発令された者が年次有給休暇を請求したときは、
労働義務がない日について年次有給休暇を請求する余地のないことから、これらの休職者は、
年次有給休暇請求権の行使ができないと解する」 (昭31.2.13 基収第489号)としています。
しかし、付与基準日から1年間の途中に休職期間が終了し、職場復帰した労働者については、
当該労働者の意見を聴取して5日間の年次有給休暇を取得させなければなりません。
この点については、育児休業や介護休業から復帰した労働者についても同様です。
付与基準日から1年間の期間の途中に育児休業や介護休業を終了し職場復帰した労働者についても、
5日間の年次有給休暇を取得させなければなりません。
ただし、復帰後の新たな付与基準日までの残りの期間における所定労働日数が、
使用者が時季を指定すべき年次有給休暇の残日数より少なく、
5日間全日数の年次有給休暇を取得させることが実質的に不可能な場合には、
可能な日数を取得させることで差支えありません。
また、よくトラブルとなる例として、新たな年次有給休暇の付与基準日直前に休職となり、
付与要件である出勤率8割を満たしていることで、新たに発生した年次有給休暇の取得請求をし、
無給の休職期間を年次有給休暇に切り替えようとする労働者がいます。
しかし、前述の通達のとおり休職期間が開始した後は、新たな付与基準日が到来し、新たな年次有給休暇が発生したとしても、
使用者はその請求を拒否することができます。
今月のポイント
付与基準日から1年の間に休職期間が終了して職場復帰した労働者は5日間の年次有 給休暇を取得する義務がある。
ただし、復帰から次の付与基準日までの労働日が少なく、5日間の取得が不可能な場合は可能な日数を取得させることで差支えない。