コラム

時間外労働の上限規制の適用猶予期間が終了

2024年3月31日に働き方改革関連法による「時間外労働の上限規制」の適用猶予事業・業務に係る猶予期間が終了することで、
特に物流、運輸業界への影響は大きなものと予想されます。
ここでは物流、運輸業界に焦点を置き、時間外労働の上限規制のポイントと検討すべき対応について考えます。



時間外労働の上限規制

働き方改革は、「働く人が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で『選択』できるように「する」ためのものです。
就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる労働環境整備に対し、「長時間労働」という日本の慣習が大きな壁となってきました。

長時間労働は労働者の身体や精神の健康を阻害し、仕事と家庭の両立を困難にさせるだけでなく、
女性のキャリア形成、男性の家庭参加を阻み、少子化を加速させる要因ともなっています。

この問題を解決するために、働き方改革の一環として、労働基準法を改正し、時間外労働の上限規制が法律に規定されました。
従来の厚生労働大臣による限度基準告示においては、時間外労働の上限は罰則による強制力がなく、
さらに特別条項を設けることにより、労働者に対し、無制限に時間外労働を行わせることが可能な状態となっていました。

労働基準法では、法定労働時間である1日8時間・1週40時間に 対し、法律上、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間、
例外として臨時的に特別な事情がある場合にも、法律により上回ることのできない上限が設けられています。
違反した場合は、罰則として、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。

上限規制の適用猶予

時間外労働の上限規制は2019年4月に施行され、中小企業は1年間猶予されて、 2020年4月から適用されています。
その中でも、一部の事業・業務については、長時間労働の背景にある業務の特性や業界内の商慣習に対する課題などを考慮して、
適用が5年間猶予され、さらには一部特例つきで適用されました。

これを適用猶予事業・業務といい、
1工作物の建設の事業、2自動車運転の業務、3医業に従事する医師、4鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業
の4事業・業務が該当します。

この5年間の猶予措置が終了するのが、2024年3月31日なのです。
特に、2自動車運転の業務を主とする物流、運輸業界に大きな影響が起こると予想され、「2024年問題」として、その対応が急がれています。

自動車運転の業務の現状

2022年9月にまとめられた「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」(経済産業省・国土交通省・農林水産省)によると、
自動車運転者の労働時間は全職業平均に比べて約2割程度長いにもかかわらず、
年収は、全産業平均と比べて5~10%程度低く、有効求人倍率は全職業平均の約2倍となっています。

また、「2022年労働力調査」(総務省)では、全産業平均に比べて若年層と高齢層の割合が低く、40歳から54歳までの中年層の割合が高くなっています。
就業者に占める女性の割合は全産業平均が45.0%である一方、運輸業・郵便業は21.9%と低い水準です。

また、2022年の「労働力経済動向 調査」(厚生労働省) では、
労働者が不足する事業所の割合が調査產業計に比べ10%ほど高く、過重労働の現場では労働力不足が顕在化している実態も見られます。

自動者運転者の労働時間等の規制については、1989年に労働省告示第7号「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」
(以下 「改善基準告示」) おいて、拘束時間、休息時間等について上限基準等が設けられ、1997年に実質的な改正が行われています。

しかし、厚生労働省「令和4年度過労死等の労災補償状況」によると、
脳・心臓疾患による労災支給決定件数は、全業種において、運輸業・郵便業が最も多い業種となっています。

依然として長時間過重労働が課題となっていたなか、
2022年12月に、働き方改革関連法に基づく時間外労働の上限規制における適用猶予期間の終了を踏まえ、
改善基準告示において当該上限規制に合わせて見直しが行われました (2024年4月1日施行)。

上限規制の影響

2024年4月以降、時間外労働の上限規制が適用されると、ドライバーの拘束時間が減少することにより、
1日に運ぶことができる荷物量が削減され、自動車運送事業者の売上げ・利益の減少、
それに伴うドライバーの収入の減少や 担い手不足など、様々な問題が懸念されています。

その結果、物流の停滞や、生活交通路線の廃止・ 減便、観光客輸送への支障などが生じるおそれがあります。
「第351回NRIメディアフォーラム」 (野村総合研究所)によると、 物流・運輪業界全体に及ぼす影響として、
輸送力の供給不足により2030年に2015年比で 「全国の約35%の荷物が運べなくなる」と試算されています。

特に、地方部において影響は深刻となり、東北は41%、四国は40%もの貨物が運ぶことができなくなる可能性が示唆されています。

「運び方改革」と3A労働

自動車運転の業務に対して、罰則付きの時間外労働の上限規制を導入するにあたり、
政府は 「運び方改革」と3A(安全・安心・安定) 労働の実現に向けた88施策を掲げています。

「長時間労働を是正するための環境整備」として、輸送効率の向上やIT導入による業務の効率化などの
「労働生産性の向上」、働きやすい環境整備や大型一種免許が取得できる職業訓練の実施などの
「多様な人材の確保・育成」、荷主・元請けなどへの協力要請や「働きやすい職場認証制度」の導入、
運賃・料金の改正などの「取引環境の適正化」が挙げられています。

また「長時間労働是正のためのインセンティブ・抑止力の強化」として、
自動車運送事業者による荷待ち時間や荷役時間の削減、ド ライバーの処遇改善、
コンプライアンス経営の強化など、働き方改革実現に向けた取り組みへの支援や、
ICTを活用した運行管理の普及、行政処分の強化などが盛り込まれています。

私たちにできること

「2024年問題」が目前に迫るなか、ネット上における受発注の取引はますます拡大し、宅配便の取扱個数も増加しています。
自動車運転の業務の働き方改革の実現とドライバー不足の解消は、 荷主企業や国民などの理解が必要不可欠です。

荷主企業に対しては、自社の業務運営がドライバーに過度の負担を与えていないか、
入出庫を集約化するなどして必要なトラックの稼働台数を節減できないかなど、確認・点検の実施が求められています。
一方、私たち国民や企業には、宅配便の再配達の削減や引越し時期の分散を行うなど、理解と協力が求められています。

自動車運転の業務の現場を、若者や女性、高齢者などすべての労働者が働きやすい、よりホワイトな労働環境に変えていくことは、
私たち一人ひとりに必要な運送サービスを安定的に確保することにつながっています。

今一度、 自分自身の問題として「2024年問題」に向き合い、できることから始めてみましょう。



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