コラム

「経済財政運営と改革の基本方針2023」が示す

2023年6月16日、「経済財政運営と改革の基本方針2023」 (骨太の方針2023) が閣議決定されました。
「加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~」を副題とした基本方針における、
企業の人事戦略上、特に重要となる労務管理のポイントを確認します。



骨太の方針2023

「骨太の方針」とは、政権の重要政策や次年度の予算編成の方向性を示す基本方針についてまとめたものです。
首相が議長を務める経済財政諮問会議で策定され、毎年6月頃に閣議決定されます。

「骨太の方針2023」においては、ロシアによるウクライナ侵略や新型コロナウイルス感染症の影響など、
「時代の転換点」ともいえる内外の歴史的・構造的な変化と課題に直面するなかで、
新しい資本主義の実現に向けた経済財政運営と改革の基本方針が明確に示されています。

また、30年ぶりとなる高水準の賃上げや企業部門における高い投資意欲などの
前向きな動きを更に活発化・持続させるため、物価や経済の動向を踏まえた上で、
経済財政一体改革を着実に推進する方向性が示されています。

新しい資本主義の加速

労働分野においては、人への投資を強化し、労働市場改革を推進することにより、
物価高に打ち勝つ持続的で構造的な賃上げを実現するとしています。

その手段として、
1「リ・スキリングによる能力向上支援」、
2「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」、
3「成長分野への労働移動の円滑化」
という「三位一体の労働市場改革」が示されています。

客観性、透明性、公平性が確保される雇用システムへの転換を図ることにより、
構造的に賃金が上昇する仕組みを作っていくことが狙いです。

同時に、地方、中小・小規模企業に関して、
生産性向上を図るとともに価格転嫁対策を徹底し、賃上げの原資の確保につなげるとしています。

また、賃金の底上げや金融資産所得の拡大などにより、家計所得の増大や分厚い中間層の形成につなげる方針です。
人手不足対策としても、個々のニーズに基づいて多様な働き方を選択し、その能力を最大限に発揮して働くことで、
企業の生産性向上に貢献し、結果、さらなる賃上げにつながる社会の実現を目指しています。

三位一体の労働市場改革 1

「三位一体の労働市場改革」の考え方については、
「内部労働市場が活性化されてこそ、労働市場全体も活性化するのであり、人的資本こそ企業価値向上の鍵である」と明記されています。

つまり一人ひとりが自らのキャリアを選択する時代となってきたなか、職務ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、
労働者が自らの意思でリ・スキリングを行い、職務を選択できる制度に移行することが重要であり、
さらには「内部労働市場と外部労働市場をシームレスにつなげ、労働者が自らの選択によって労働移動できるようにすることが急務」であるとしています。

三位一体の労働市場改革の一つ目が「リ・スキリングによる能力向上支援」。
現在、 従業員のスキルを高めることを目的とした企業主導の学び直しに対して企業を通した給付が75%を占めるなか、
今後は従業員が自らの意思で取り組みやすくするために、個人主導の学び直しに対して、個人への直接支援を拡充するとしています。

さらに、教育訓練給付の拡充、 教育訓練中の生活を支えるための給付や融資制度の創設について検討するほか、
雇用調整助成金についても、休業よりも教育訓練による雇用調整を選択しやすくなるように、助成率などの見直しを行うと しています。

三位一体の労働市場改革 2

二つ目の「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」については、
企業が制度の導入を行う際の参考となるように、年内に事例集を取りまとめるとしています。

具体的には、職務給(ジョブ型)を導入するにあたり、日本企業における人材確保上の目的、
人材の配置・育成・評価方法、リ・スキリングの方法、賃金制度、
労働条件変更と現行法制・判例との関係などについて事例を整理するとしています。

三位一体の労働市場改革 3

三つ目が「成長分野への労働移動の円滑化」で、失業給付制度において、
自己都合退職における要件を緩和する方向で設計を行う方針です。

具体的には、自己都合による離職の場合、失業給付を受給できない期間について、
失業給付の申請前にリスキリングに取り組んでいた場合においては、
会社都合による離職と同じにするとしています。

また、自己都合退職の場合は退職金を減額するといった労働慣行の見直しに向けて、
「モデル就業規則」の改正や、退職所得課税制度の見直しを行うなどし、
転職に踏み切りやすくする環境を整備する方針です。

家計所得の増大と分厚い中間層の形成

賃上げの流れの維持・拡大を図り、中小企業等の賃上げを実現するための環境整備として、
賃上げ税制や補助金などにおける賃上げ企業の優遇といった強化を行う方針です。

最低賃金については、今年は全国加重平均1000円を達成することを含めて議論し、
地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き上げるなど、 地域間格差の是正を図るとしています。

また、同一労働同一賃金の徹底と必要な制度の見直しを通じて、非正規雇用労働者の処遇改善を促し、
国全体として賃金を底上げすることにより、家計所得の増大に取り組むとしています。

さらに、適正な価格転嫁や取引適正化、資産運用立国の実現、資産所得倍増プランの実行に取り組む方針です。
家計所得の増大と併せて、持続可能な社会保障制度の構築や少子化対策・こども政策の抜本強化などを通じて、
分厚い中間層を復活させることで、格差の拡大と固定化における社会の分断を回避し、持続可能な経済社会の実現につなげるとしています。

多様な働き方の推進

多様な働き方を効果的に支える 雇用のセーフティネットを構築し、労働者一人ひとりが活躍できる環境を整備するために、
週所定労働時間20時間未満の短時間労働者に対する雇用保険の適用拡大を検討し、2028年度を目途に実施する方針です。

併せて、時間や場所を有効活用できる良質なテレワークや、
ビジネスケアラーの増大等を踏まえた介護と仕事の両立支援を推進するとしています。

さらに、勤務間インターバル制度の導入を促進するなど働き方改革を一層進めながら、
副業・兼業の促進、選択的週休3日制度の普及等に取り組むとしています。

また、フリーランスが安心して働くことのできる環境整備のため、
フリーランス事業者間取引適正化等法の十分な周知・啓発、
執行体制や相談体制の充実化などに取り組むとしています。

包摂社会の実現~女性活躍

「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023」(女性版骨太の方針2023)に基づき、
女性活躍と経済成長の好循環の実現に向けて、女性登用の加速化、女性起業家の育成・支援などを進めるとしています。

また同時に、多様な正社員の普及促進や長時間労働慣行の是正、
仕事と家庭の両立に向けた男性の育児休業取得の促進やベビーシッター家事支援サービス利用の普及、
男女間賃金格差の更なる開示の検討、女性の視点も踏まえた社会保障制度・税制等の検討、
女性デジタル人材の育成など、女性の所得向上・経済的自立に向けた取り組みを強化する方針です。

今後はこれらの方針に基づいて予算編成や制度改革の具体化が進められる予定であり、
その動向を注視して自社の労務管理に適切に反映させていきましょう。


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